今回は、RPAエンジニアが習得すべきスキルセットや、キャリアパスについて書きます。この辺りの捉え方は人によって意見が分かれるので、唯一正しい考え方は存在しません。RPAのエンジニアやコンサルタントとして活動する私自身の経験をもとに持論を述べます。RPAのスキルを身につけ、新しいキャリアを歩んでみたい人は、参考材料の一つとしてご覧ください。
1. RPAエンジニアの職務内容
RPAエンジニアのスキルセットや、キャリアパスについて言及する前に、関連するプレイヤーの職務内容(役割や責任など)について俯瞰してみます。業務を行う上で、他のプレイヤーとどのように連携するかを知ることはとても重要です。なお、今回の前提条件としては、顧客からRPAの導入支援や受託開発を依頼されたケースを想定しています。RPAソフトウェア自体やパッケージ商品等を販売するケースは対象外とします。
1-1. 各プレイヤーの関係性
各プレイヤーの関係性を下図に示します。
今回は、製品やサービスを納品した後のカスタマーサポート(CS)については割愛させて頂きます。CSについては、専属の部隊がいない場合は、基本的に営業やコンサルタント、エンジニアが協力して対応することになります。また、複数の職務を一人のプレイヤーが兼務する場合も考えられます。例えば、コンサル兼マネージャーや、コンサル兼エンジニア、エンジニア兼WFビルダーなどです。
各プレイヤーの職務内容(役割や責任など)を下表に簡単に纏めます。
プレイヤー名 | 職務内容(役割や責任など) |
---|---|
顧客(依頼者) | 業務情報の提供、製品・サービスの受け入れ、報酬の支払い |
営業(仲介者) | 顧客訪問、提案営業、契約獲得、顧客対応、トラブル対応 |
コンサルタント | 業務ヒアリング、施策立案、要件定義、プロジェクトの進捗管理、 システムの要件適合確認、製品・サービスの納品、トラブル対応(初期) |
エンジニア | システムの設計、ワークフローの要件適合確認、トラブル対応 |
WF(Workflow)ビルダー | ワークフローの構築、ワークフローの動作検証、ワークフローの改修 |
マネージャー | プロジェクトの進捗管理、各種リソースの配置、関連部署との折衝 |
1-2. RPAの業務の流れ
RPAの業務(導入支援や受託開発)の大まかな流れを、各プレイヤーの観点から記述します。
顧客(依頼者)
先ず、RPAの導入支援や受託開発を希望される顧客が存在します。社内プロジェクトの場合は、ユーザー部門や事業部門などの依頼者という位置づけになります。顧客や依頼者は、自社や自部署の業務をRPAで自動化したいと考えています。
営業(仲介者)
顧客と接点を持つのが営業です。社内プロジェクトの場合は、各部署の依頼者と技術チームを結ぶ仲介者という位置づけになります。営業は顧客に積極的にアプローチしながら、顧客の要望を聞き出し、RPAの導入支援や受託開発などの提案を行います。
コンサルタント
コンサルタントは営業から共有された情報をもとに、専門的・技術的な観点より見解を示し、適切な判断を行います。また、顧客から業務の詳細情報をヒアリングします。ヒアリング結果から施策立案を行い、成果物(製品やサービスなど)の要件を定義します。最終的には、成果物を顧客に納品して、プロジェクトを完遂させます。
エンジニア
エンジニアは要件定義をもとに、RPAのシステム設計(基本設計や詳細設計)を行います。設計で特に重要なのは、システムが安定して稼働するための例外処理です。また、システムが正しく動作するか確認するためのテスト設計も行います。運用時に問題が発生した場合は、エラー分析やトラブル対応をすることもあります。
WF(Workflow)ビルダー
WFビルダーは、設計情報をもとにRPAのワークフローを構築します。通常は、特定のRPAソフトウェアを用いてワークフローを構築しますが、時にはプログラミングやExcelなどの関数を使用するケースもあります。WFビルダーは縁の下の力持ちとなる重要な存在です。
マネージャー
マネージャーは、プロジェクト全体の進捗管理を行います。定期的にミーティングなどを開き、各プレイヤーの進捗状況を確認していきます。状況によっては、各種リソースの再配置や、関連部署との折衝業務を行うこともあります。
2. RPAエンジニアのスキルセット
次は、RPAエンジニアのスキルセットについて述べていきます。将来のキャリアパスを考えていく上で、各プレイヤーがどのようなスキルを求められるかを知ることはとても重要です。
2-1. スキルセットの全体像
各プレイヤーに求められるスキルセットの全体像を下図に示します。
今回は、WFビルダーのレベルを3段階に分けました。各プレイヤーに求められるスキルセットを下表に簡単に纏めます。
プレイヤー名 | スキルセット | 習得期間 |
---|---|---|
WFビルダー(Lv.1) | レコーディング、ブラウザ操作、Excel/CSV、メール送信、変数利用 | 1~2ヶ月 |
WFビルダー(Lv.2) | 配列データ、制御(for/if)、テキスト処理、正規表現、セレクタ設計 | 3~6ヶ月 |
WFビルダー(Lv.3) | 例外処理、スクリプト、API利用、ワークフローの構造化、デバッグ操作 | 1~2年 |
エンジニア | 基本設計、詳細設計、テスト設計、トラブル対応 | 3~5年 |
コンサルタント | ヒアリング、施策立案、プロジェクト管理、要件定義、基本設計 | 3~5年 |
2-2. スキルセットの詳細
各プレイヤーに求められるスキルセットの詳細を記述します。
WFビルダー(Lv.1)
最初に身につけるスキルは、レコーディング機能等を用いて、ブラウザやアプリケーションを自動操作することです。データを扱う際には、ExcelやCSVファイルの連携方法を学びます。情報を通知する際には、メールを送信する操作が必要です。また、ワークフローを構築する場合は、変数という概念が登場します。この辺りの一連のスキルを身につけることで、簡素で短い業務を自動化することができます。
WFビルダー(Lv.2)
WFビルダーのLv.2に進むには、配列データやテキストデータを加工するスキルや、繰り返し処理、分岐処理などに関する概念が必要になります。また、ブラウザやアプリケーションを安定操作するために、汎用的なセレクタの設計や、変数を組み合わせるスキルも必要です。この辺りの一連のスキルを身につけることで、大半の日常業務を自動化することができます。
WFビルダー(Lv.3)
WFビルダーのLv.3に進むには、システムを安定稼働させるための例外処理や、複雑な処理を実現するスクリプトを作成するスキルが必要です。また、システムの保守性を高めるために、ワークフローを構造化して構築するノウハウも重要になります。トラブル発生時にエラー分析するためのデバッグ操作も学びましょう。この辺りの一連のスキルを身につけることで、幅広いルーティン業務を自動化することができます。
エンジニア
エンジニアは、ワークフローを構築するスキルに加えて、RPAをシステムとして設計できる知識やノウハウが求められます。システム全体の構成や、入出力の定義、例外処理の仕様、テスト設計などに関するドキュメントを作成する能力も必要です。また、WFビルダーへの指示・指導や、運用時に発生したトラブル対応などができる総合的な力を身につけましょう。
コンサルタント
コンサルタントは、顧客から業務の詳細情報をヒアリングするスキルが求められます。また、ヒアリング結果から価値のある施策を立案する能力や、システムの要件定義・基本設計を行うテクニカルなスキルも必要です。顧客と折衝したり、成果物を顧客に納品するまでの進捗を管理できる総合的な力を身につけましょう。
3. RPAエンジニアのキャリアパス
最後は、RPAエンジニアのキャリアパスについて述べていきます。各プレイヤーのキャリアパスの選択肢を下図に示します。なお、ここに記載したキャリアパスがすべてではありません。
3-1. 企業内IT人材
企業内のIT人材として、「WFビルダー」→「エンジニア」→「コンサルタント」の順にスキルアップしていくことができます。技術を極めたい人はエンジニアを深堀し、ビジネスに興味関心がある人はコンサルタントを目指すのが良いと思います。一般的な企業では、エンジニアよりもコンサルタントの方が活動領域は広く、収入面も高めかもしれません。
安定志向の人は、企業内IT人材としてスキルアップしていくことを勧めます。他の独立系キャリアでは生存競争が激しく、相当の覚悟が必要になります。最近は企業内でも、社内起業などを通して、個人のキャリアを飛躍させることも可能になってきました。マインド次第で、いくらでも挑戦できると思います。
3-2. 個人事業主・フリーランス
企業内IT人材は、独立して個人事業主やフリーランスになることも可能です。週5日の案件に参画した場合は取引先が1社に限られます。週3日や週2日の案件と、オフシーズンを組み合わせることで、より柔軟で多様な働き方を実現することもできます。ただし、案件を獲得するためには、高度なスキルや経験値、実績等が求められます。また、多少の営業力も必要になります。
企業内の同じポジションと比較すると、一般的に収入は3~7割ほどアップすると思われます。ただし、独立すると経理処理の手間や、社会保険料の負担増などの見えにくいコストも発生するため、一概にどちらが良いか判断できません。独立するかどうかは、金銭面ではなく、自身の性格や実現したい働き方の観点で判断した方が上手くいくと思います。
3-3. 起業家
事業を立ち上げ、企業を経営するという選択肢もあります。人を雇用したリ、独自の製品やサービスを世の中に提供していくことになります。一人親方では実現できない大きな目的を達成したい場合は、起業という手段が有効となるでしょう。しかし、起業家として成功する可能性は極めて低く、相当の忍耐力も必要になります。金銭ではなく、世の中を良い方向に変えたいなどの強い想いを重視する方が結果的に上手くいくと思われます。私自身もITスクールの事業化を通して、世の中の社会問題を解決したいと考えています。
3-4. ITスクール講師・セミナー講師
ITスクールの講師はIT業界ならではのキャリアです。先生や先輩として、後進の育成に貢献することができると思います。人に物事を教えるのが好きな人に向いているキャリアです。私自身も人に教えるのが好きだったので、ITスクールを始めて、RPAなどを教えています。このキャリアでは、最新技術に関心を持って、自分自身も常に勉強し続ける姿勢が求められます。自己をブランディングできる人は、知名度を上げてセミナー講師としても活動することができると思います。
最後に
今回は、RPAエンジニアが習得すべきスキルセットや、キャリアパスについての持論を書きました。新しいキャリアを模索している人にとって、何かしらの参考になっていれば嬉しいです。
現在、私はITスクール「First」を運営しています。その中で、RPAスキルを起点とした個人のキャリア開発を展開し始めました。特に、下記の人に対して積極的な支援を行いたいと考えています。
- 辛い現状を変えたい若手
- キャリアアップに悩むミドル
- ITスキルの学習機会が少ないシニア
【初心者歓迎・RPA個人講座】RPAを一から学ぶITスクール